輸液製剤として生理食塩水と、より生理的なCl濃度の緩衝晶質液のどちらが適切か?

Young P, Bailey M, Beasley R, Henderson S, Mackle D, McArthur C, McGuinness S, Mehrtens J, Myburgh J, Psirides A, Reddy S, Bellomo R, Bellomo R, Bellomo R. “Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit: The SPLIT Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2015;314(16):1701-10. [Pubmed]

 0.9%食塩液(生理食塩水)はもっとも使われている輸液である。0.9%食塩液のNa濃度は血清Naよりわずかに高いのみだが、Cl濃度は血清Clよりもかなり高く、0.9%食塩液を大量に急速に投与することにより、高Cl血症やアシドーシスを起こすことが知られている。
 また、近年、いくつかの研究において、より生理的なCl濃度の輸液に対して、0.9%食塩液が有害である可能性が指摘されている。具体的には、0.9食塩液の方が急性腎障害(acute kidney injury ; AKI)の発症や腎代替療法(renal replacement therapy; RRT)の必要頻度、死亡率が高いという指摘されている。たとえば、オーストラリアメルボルンの大学付属病院でおこなわれた、Yunosらの研究では、標準的な輸液療法に対し、Cl濃度の高い輸液(0.9%食塩液、4% succinylated gelatin液、または4%アルブミン液)を制限するかわりに、乳酸リンゲル液またはPlasma-Lyte 148または、Cl濃度の低い20%アルブミン液を用いると、AKIの発症とRRTの必要数は有意に低下した。
 これらの研究を進めるために、ランダム化試験であるSPLIT試験が企画され、2015年のJAMA誌において、Youngらが報告した。
 SPLIT試験(0.9% Saline vs Plasma-Lyte 148 for ICU fluid Therapy trial)はNew Zealandの4つの施設でおこなわれた多施設共同試験である。ICUで輸液治療が必要な患者2278名を対象とし、0.9%食塩液とPlasma-Lyte 148の比較をおこなった試験である。Plasma-Lyte 148 の組成はNa 140 mmol/L, K 5 mmol/L, Cl 98 mmol/L, Mg 1.5 mmol/L, Acetate 27 mmol/L, Gluconate 23 mmol/Lであり、ソルアセトF®などの酢酸リンゲル液に近い組成の緩衝晶質液である。参加したICUには、7週ごとに生理食塩液またはPlasma-Lyte 148が割り当てられ、28週間の中で、2回のクロスオーバーがおこなわれた。輸液のスピードや頻度は治療医にゆだねられた。 主要評価項目はAKI (血清Crの2倍以上の増加、または、0.5mg/dL以上の増加)の発生頻度であり、副次評価項目は、RRTの必要頻度、院内死亡率であった。
 90日間のAKI発症は、Plasma-Lyte 148群9.6%、生理食塩水群9.2%で、有意な差はなかった。RRTが必要になった患者は、Plasma-Lyte 148群3.3%、生理食塩水群3.4%で、有意な差はなかった。 院内死亡は、Plasma-Lyte 148群 7.6%、生理食塩水群8.6%で、有意な差はなかった。
 結論として、本研究では、ICUにおいて輸液療法を受ける患者において、生理食塩水に対して、緩衝晶質液でAKIのリスクを下げることができず、これまでの研究とは異なる結果となった。このことの原因として、ICU在室中の輸液量の平均が2Lと少ないことが考えられる。また、対象患者の重症度がそれほど高くなく(APACHE II score の中央値14)、多くの術後患者を含んでいたことも原因かも知れない。より高いリスク群において、さらなる試験が必要であろう。