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血清K値とCKD患者の予後血清K値とCKD患者の予後

Luo J, Brunelli SM, Jensen DE, Yang A. Association between Serum Potassium and Outcomes in Patients with Reduced Kidney Function. Clin J Am Soc Nephrol. In press 2015.[Pubmed]

 CKD患者においては、健常に比べて、血清K異常が多い。重症の高K血症を除けば、血清K異常と予後の関係は不明である。また、eGFRの値によって、血清K異常の頻度や予後との関連を詳細に調べた研究は存在しない。
 LuoらはClinical Journal of American Society of Nephrology誌に、eGFRで層別化したCKD患者の血清K異常の頻度と、腎予後の関係について報告した。
 米国のマネージドケアHealthCare Partnersの患者のうち、CKD(eGFR<60ml/min/1.73m2)患者で血清K値のデータがある55266名を対象とした。移植患者と透析患者は除外した。
 まず、血清K異常の頻度であるが、血清K値5.5-5.9mEq/Lまたは6.0mEq/L以上は低いeGFR群に多く、eGFR 50-59 ml/min/1.73m2では、それぞれ1.7%と0.2%であり、30 ml/min/1.73m2未満では7.6%と1.4%であった。血清K 3.5mEq/L未満はすべてのeGFR群に1.2-1.4%いた。高K血症は糖尿病の合併、冠動脈疾患の合併、RAAS阻害薬の使用と相関があった。また、低K血症は女性に多く、サイアザイド薬の使用と相関があった。
 一方、血清K異常と予後(フォローアップの中央値2.76年)の相関であるが、血清K値と死亡率には、U-shapedの相関があり、死亡率は、血清K3.5mEq/L未満で3.05倍、血清K 6.0mEq/L以上で3.31倍高かった。各eGFR群においては、重大な心血管イベント、入院、RAAS阻害薬の中止と、血清K濃度にはU字の相関が認められた。
 以上の結果より、透析をおこなっていないCKD患者においては、高K血症、低K血症とも独立に、死亡、MACE、入院、RAAS阻害薬の中止と相関があると結論づけた。今後、血清K値を正常に保つことで、予後がどのようになるのか調べる必要があるだろう。


アシドーシスによるKシフトのメカニズム

尿細管アシドーシスや下痢などによる無機酸の蓄積によるアシドーシスでは、H+が細胞に入るのと入れ替えに、K+が細胞から外に出てくるため、血清Kが上昇する。一方で、乳酸アシドーシスやケトアシドーシスのような有機酸の蓄積によるアシドーシスでは血清Kは上昇しない。この現象は、以下の論文でもきれいにしめされている。

ph_on_potassium

(ROSEの本よりコピー)

Perez GO, Oster JR, Vaamonde CA. Serum potassium concentration in acidemic states. Nephron. 1981;27(4-5):233-43.

そのメカニズムについては、以下のように考えられている。

そもそも、Kのもっとも大きな貯蔵庫となっている筋肉においてはK-H交換体という実体は存在しない。実際には、複数のトランスポーターがカップリングすることで、最終的に、HとKが交換されるようになっている。

具体的には、

  • Na+-H+交換体とNa+-K+-ATPaseのカップリング
  • 2HCO3—Na+交換体とNa+-K+-ATPaseのカップリング
  • HCO3—Cl-交換体とK+-Cl-交換体とのカップリング

などがある。

 Fig3

Aronson PS, Giebisch G. Effects of pH on potassium: new explanations for old observations. J Am Soc Nephrol. 2011;22(11):1981-9.

無機酸によるアシドーシスの場合、H+が増えると、Na-H交換体が活性化し、細胞内のNa濃度が下がる。したがって、Na-K-ATPase活性も低下するので、血清K濃度が上昇する。

一方、有機酸によるアシドーシスの場合、血清Kは上昇しないが、そのポイントは、筋肉にはmonocarboxylate transporter (MCT; MCT1 and MCT4)が存在すると言うことにある。有機酸によるアシドーシスの場合、monocarboxylate transporterにより有機酸塩とH+は細胞内に取り込まれ、細胞内のH+濃度が上昇することにより、Na+-H+輸送体が活性化し、細胞内Na+濃度が上昇する。それにより、Na-K-ATPaseが活性化し、細胞外のKは細胞内に取り込まれるために、血清Kは上昇しないのである。

Fig2

Palmer BF. Regulation of Potassium Homeostasis. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(6):1050-60.


K摂取を増やすと、なぜNa利尿を起こすか

友人に、「K摂取を増やすとNa利尿がおこることは、よく経験することだが、皮質集合管では、KとNaの輸送は逆向きであり、K摂取を増やすとNaの尿中排泄は減るように思えるのだが、これはいかなるメカニズムなのか」という質問を受けました。比較的まじめに、回答しましたので、こちらにもシェアしておきます。
 
非常によくできた総説は、先月号のCJASNにある以下の総説です。
Palmer LG, Schnermann J. Integrated Control of Na Transport along the 
Nephron. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(4):676-87.
 
この総説の、最後の項を参考にしながら、K摂取を増やすと、なぜNa利尿を起こすかを説明します。
 
血清Kの急激な上昇は、Na利尿をおこします。このメカニズムは、血清Kの急激な上昇が、近位尿細管、TAL、DCTにおけるNa再吸収を減少させることによると考えられています。ただし、近位のネフロンセグメントでの変化は、糸球体尿細管バランスや尿細管糸球体フィードバックによって、大部分は代償されてしまいます。しかし、DCTにおけるNa再吸収はそのような代償メカニズムの影響を受けません。DCTにおけるNa再吸収の減少は、より遠位のアルドステロン感受性遠位尿細管へのNaデリバーを増やし、Naの再吸収とKの排泄を増加させます。実際、血清Kの急激な上昇が、DCTのサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体NCCのリン酸化を減少させていることが示されている(1)。慢性的なK摂取の増加は、NCCのリン酸化のみならず、NCCの総数自体を減少させること(2)、および、NCCの細胞表面への発現も減少させていることが示されている(3)。
 
つまり、キーになるのはK摂取によるDCT(遠位曲尿細管)におけるサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体NCCの活性低下です。
 
1. Sorensen MV, Grossmann S, Roesinger M, Gresko N, Todkar AP, Barmettler  G, Ziegler U, Odermatt A, Loffing-Cueni D, Loffing J. Rapid dephosphorylation of the renal sodium chloride cotransporter in response to oral potassium intake in mice. Kidney Int. 2013;83(5):811-24.
2. Vallon V, Schroth J, Lang F, Kuhl D, Uchida S. Expression and phosphorylation of the Na+-Cl- cotransporter NCC in vivo is regulated by dietary salt, potassium, and SGK1. Am J Physiol Renal Physiol. 2009;297(3):F704-12.
3. Frindt G, Palmer LG. Effects of dietary K on cell-surface expression of renal ion channels and transporters. Am J Physiol Renal Physiol. 2010;299(4):F890-7.

TTKGはもう使わない方がよい

TTKG(Transtubular K gradient)は、腎臓における主たるK排泄のセグメントである皮質集合管におけるK分泌の指標であり、臨床において、低K血症、高K血症の鑑別診断に有用とされてきた。

しかし、TTKGをもともと提唱したHalperinは、2011年に出した下記の論文で、内髄質集合管において大量の尿素の再吸収が存在することから、TTKG算出の仮定が崩れたので、もはや、TTKGは使わない方がよいと薦めている。

Kamel KS, Halperin ML. Intrarenal urea recycling leads to a higher rate of renal excretion of potassium: an hypothesis with clinical implications. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2011;20(5):547-54.

As a large quantity of urea is reabsorbed daily in the inner medullary collecting duct, the assumption made in the calculation of the transtubular K concentration gradient that there is no appreciable reabsorption of osmoles downstream CCD is not valid.

実際、UpToDateを読むと、

Transtubular potassium gradient — In a later publication, the authors of the original studies found that the assumptions underlying the TTKG were not valid. It was concluded that the TTKG was not a reliable test for the diagnosis of hyperkalemia. We recommend not using the TTKG to evaluate patients with hyperkalemia.(UpToDate, Causes and evaluation of hyperkalemia in adults)

となっており、高K血症の鑑別においてTTKGは使わないようにと明記してある。

低カリウム血症の鑑別においては、そこまで踏み込んで書かれてはいないが、腎臓におけるK喪失の有無は24時間蓄尿または、スポット尿におけるカリウム-クレアチニン比で判断することが薦められている。

 Assessment of urinary potassium excretion — The best method for assessing renal potassium excretion is a 24-hour urine collection. However, the potassium concentration or, preferably, potassium-to-creatinine ratio on a spot urine are alternatives.(UpToDate, Evaluation of the patient with hypokalemia)

私が愛読しているPrecious Bodily Fluids http://www.pbfluids.comには、こんな皮肉の写真が載っている。