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アルカリ尿の尿-血液PCO2差

NH4+の尿中排泄が低下し、尿pH > 7.0の患者で遠位ネフロンでのH+分泌を評価するために使う。
十分なNaHCO3を投与して、尿pH>7.0にする。NaHCO3を投与すると、遠位尿細管に大量のHCO3-が運ばれる。集合管からのH+分泌によって管腔内でH2CO3が形成される。遠位ネフロンの管腔膜には炭酸脱水酵素が存在しないので、H2CO3は、髄質集合管の下部の尿路においてゆっくりCO2 + H2Oに変換され、尿中のPCO2は血中のPCO2よりかなり高くなる(70 mmHg程度)。

U bPCO2

  • 集合管でのH+分泌が正常だと尿PCO2 70mmHg
  • 集合管でのH+分泌が障害されていると、尿PCO2=血中PCO2となる。
  • 集合管でのH+逆流入(アンホテリシンB )があるとPCO2は70mmHg程度になる。
  • 集合管でHCO3-の分泌がある(SAO患者の一部)とPCO2は70mmHg程度になる。遠位ネフロンでHCO3-が分泌されると、管腔内液のpHが上昇し、H2PO4-からH+が放出され、HCO3-とH2CO3が形成されるから。

検査の制限:腎濃縮力障害が強いと、集合管でのH+分泌が正常でも、アルカリ尿の尿PCO2は低くなる。

参考文献

  1. Halperin ML, Goldstein MB, Haig A, Johnson MD, Stinebaugh BJ. Studies on the pathogenesis of type I (distal) renal tubular acidosis as revealed by the urinary PCO2 tensions. J Clin Invest. 1974;53(3):669-77. オリジナル論文
  2. DuBose TD, Caflisch CR. Validation of the difference in urine and blood carbon dioxide tension during bicarbonate loading as an index of distal nephron acidification in experimental models of distal renal tubular acidosis. J Clin Invest. 1985;75(4):1116-23.オリジナル論文の有効性を確認した論文

東南アジア楕円赤血球症(SAO)と遠位型RTA

東南アジア楕円赤血球症(SAO)はパプアニューギニア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、南タイなどに多く、特定の地域住民では30%に達する有病率がある。

SAO はCl-/HCO3-交換体-1(AE-1)をコードする SLC4A1 遺伝子中の 27 塩基の欠損(ヘテロ変異)などの変異が原因であることが知られている。この変異によって、赤血球の陰イオン輸送活性が低下し、赤血球の剛性が高まる。末梢血塗抹検査により特徴的な丸みを帯びた楕円赤血球を観察されることで診断される。臨床症状は時に貧血が見られる程度である。東南アジアは歴史的に熱帯性マラリアの発生率が高い地域であり、SAO は熱帯熱マラリアに対して抵抗性を与えることから、遺伝適応により生じたと考えられている。

AE1は赤血球膜以外にも、腎臓集合管A型間在細胞の基底膜側にも発現しており、腎臓AE1(kAE1)は赤血球のAE1と同じ遺伝子から転写されるが、異なるプロモーターを使っていて、赤血球のAE1に比べて、N末端の65アミノ酸を欠いた短い産物である。

SAOの有病率が高い地域では、遠位型RTAもよく見られるが、SAO患者に見られるAE1の遺伝子変異そのものでは、腎臓での酸排泄は障害されない。

SAOと遠位型RTAを認める2つの症例の分析では、それぞれ、Ex 11Δ27のヘテロ変異でSAOをおこし、G701Dのヘテロ変異では正常、Ex 11Δ27とG701Dのコンパウンドヘテロ変異でSAO+dRTAをおこしていた。

kAE1の変異は陰イオン交換活性には影響を与えないが、kAE1のフォールディングや構造変化をおこす。kAE1のS773PやG701Dといった変異は、劣性変異であり、変異AE1と野生型AE1のヘテロオリゴマーは、トラフィッキングに異常がない。変異AE1のホモオリゴマーは、G701Dはゴルジにとどまり、S773Pは基底膜側にトラフィッキングされるが、フォールディングに異常があるため輸送活性がない。kAE1のR901XやG609Rといった変異は、優性変異であり、変異AE1と野生型AE1のヘテロオリゴマーは、一部が管腔側膜に誤挿入される。SAOと遠位型RTAを持つ患者に見られる、NaHCO3負荷時の尿-血液PCO2差が減少しないことは、このように、A型間在細胞においてAE1が管腔膜に挿入される(正常であれば、基底膜側に挿入される)ことによると考えられる。

参考文献

  1. Vasuvattakul S. Molecular Approach for Distal Renal Tubular Acidosis Associated AE1 Mutations. Electrolyte Blood Press. 2010;8(1):25-31.
  2. Vasuvattakul S, Yenchitsomanus PT, Vachuanichsanong P, Thuwajit P, Kaitwatcharachai C, Laosombat V, Malasit P, Wilairat P, Nimmannit S. Autosomal recessive distal renal tubular acidosis associated with Southeast Asian ovalocytosis. Kidney Int. 1999;56(5):1674-82.

尿中NH4+排泄量の推定方法

健常人においては、尿中NH4+排泄は20-40 mmol/日であるが、慢性アシドーシスにおいて,、腎臓はNH4+排泄を200 mmol/日以上まで増やすことができる。尿中NH4+排泄を増やすことができないことが、尿細管性アシドーシスの病態として重要である。したがって、尿中NH4+排泄量はAG正の代謝性アシドーシスにおいて、下痢かRTAかを鑑別するためのキーになる。

尿NH4+濃度をルーチンに測定できる施設は少ないので、通常、推定を行うが、推定する方法は、2つあり、尿アニオンギャップ(AG)と尿浸透圧ギャップを利用する方法がある。

(1)尿AGを利用する方法
尿AGは以下の式で定義される。
尿AG = UNa + UK – UCl
尿中の主な陽イオンはNa+、K+、NH4+であり、主な陰イオンはCl-である。したがって、UNH4+はUNa + UKとUClの差から推定できるという考え方である。健常人においては、尿AGは通常プラスの値(20-90 mmol/L)である。下痢などのアシドーシスによって、適切にNH4+排泄が増加すると、UClが増えるので、尿AGがマイナス値になる。遠位型RTAなどでは、適切にNH4+排泄を増加できないため、尿AGがプラス値のままである。したがって、尿中NH4+排泄を直接に測らなくても、尿AGによって、アシドーシスに対する尿中NH4+排泄が適切かどうかのおおよその判断ができることになる。
まとめると、
AG正の代謝性アシドーシスにおいて、UAG正(通常20~90mEq/L)だと、NH4排泄が正常ないし少なく、代謝性アシドーシスの原因はRTAである。
AG正の代謝性アシドーシスにおいて、UAG負(通常-20~-50mEq/L)だと、NH4排泄が増加しており(通常80mEq/L以上)、代謝性アシドーシスの原因は下痢である。
尿AGを利用する方法には制限があり、アンモニアとともに排泄される陰イオンがCl-の時に限られる。つまり、トルエン中毒のように、尿中に大量の馬尿酸陰イオンが排泄されるような場合には使えない。

ここで、「ハルペリン病態で考える電解質異常」45ページにある式2について考えてみたい。ハルペリンでは、尿AGという用語は使わずに尿中総電荷数という用語を使っている。式2は
–UNH4 = (UNa + UK)ー(UCl + 80)
であるが、これは、尿中のみ測定の陰イオンと陽イオンの差が80mEqと一定であることを示している。上に書いたように、尿AG = UNa + UK – UCl = 20〜90で UNH4は20〜40であるので、
UNa + UK + UNH4 – UCl = 0〜50
UNa + UK + UNH4 = UCl + 0〜50
ということになる。つまり、80のかわりに0〜50という値を使っているということになる。ハルペリンらも、未測定の陰イオンの排泄量は食事摂取によって大きく変わるので、80というのはあてにならないとしている。

(2)尿浸透圧ギャップを利用する方法
もう一つの尿中NH4+排泄量を推測する方法は、尿浸透圧ギャップを利用する方法である。通常、尿の浸透圧を形成するのは、Na塩、K塩、ブドウ糖、尿素、NH4塩であることを利用する。
尿浸透圧ギャップは、
測定したUosm – {2 x (UNa + UK) + Uglucose (mg/dL) / 18 + Uurea (mg/dL)/ 2.8}
尿浸透圧ギャップの正常範囲は10-100 mOsmol/kgであり、尿中NH4+排泄量はこの値の半分(5-50 mmol/L)である(NH4+と同量の陰イオンがあるため)。下痢などによるアシドーシスでNH4+排泄が増加するときには、尿浸透圧ギャップは>200 mOsmol/kgとなる。
NH4+の1日あたりの排泄量を計算する場合には、Ucreatinineを同時に測定し、健常人での尿クレアチニン排泄量が20mg/kg体重/日(0.2 mmol/kg体重/日)であることから推算する。腎臓が正しく働いている場合には、慢性アシドーシスに対し、NH4+排泄量は200-300mEq/日まで増加し、75mEq/日未満の場合はNH4+排泄に障害があると考える。
まとめると、慢性アシドーシス患者で尿浸透圧ギャップが150 mosmol/kg未満なら、腎臓はNH4排泄を増加できていないので、遠位型RTAまたは高K血症型RTAと考える。一方、400 mosmol/kg以上なら、腎臓のNH4排泄は正常に増加しており、下痢などを考える。
尿浸透圧ギャップを利用する方法が尿AGを利用する方法より優れている点は、NH4+がCl-以外の陰イオンととともに排泄されるときにも使えるという点である。逆に、尿浸透圧ギャップを利用する方法が問題となるのは、尿路感染症の時や、アルコールやマンニトールなどの浸透圧物質が存在する時である。

重要なことは、これら2つの方法はあくまでも定性的なNH4+排泄の目安であり、定量的な方法ではないと言うことを認識することである。実際に、Haらによれば、尿AGを用いた方法、尿浸透圧ギャップを用いた方法と尿中NH4+の実測値の間には、十分な相関はみられなかったとしている。どちらかと言えば、尿浸透圧ギャップの方が相関は高い。

UNH4
Ha LY, Chiu WW, Davidson JS. Direct urine ammonium measurement: time to discard urine anion and osmolar gaps. Ann Clin Biochem. 2012;49(Pt 6):606-8.

ハルペリンをはじめとして、尿浸透圧ギャップを用いた方法を勧めているが、尿中の尿素、グルコース、尿浸透圧をルーチンに測っているケースは少ないと思われるので、尿AGを用いるのでも十分なのだと思う。

参考文献

  1. Rastegar M, Nagami GT. Non-Anion Gap Metabolic Acidosis: A Clinical Approach to Evaluation. Am J Kidney Dis. 2017;69(2):296-301.
  2. Soleimani M, Rastegar A. Pathophysiology of Renal Tubular Acidosis: Core Curriculum 2016. Am J Kidney Dis. 2016;68(3):488-98.
  3. Michael Emmett, MDBiff F Palmer, MD: Urine anion and osmolal gaps in metabolic acidosis. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on December 31, 2018.)

酸塩基平衡異常とCKDの進行

Vallet M, Metzger M, Haymann JP, Flamant M, Gauci C, Thervet E, Boffa JJ, Vrtovsnik F, Froissart M, Stengel B, Houillier P, Houillier P. Urinary ammonia and long-term outcomes in chronic kidney disease. Kidney Int. 2015;88(1):137-45. [Pubmed]

 CKD患者において代謝性アシドーシスを補正することが腎機能低下の抑制につながることが想定されており、近年報告された2つのRCTによって、エビデンスが確立された。de Brito-Ashurstらの研究によれば、末期CKD患者の代謝性アシドーシスに対して重炭酸ナトリウムを投与すると、腎代替療法の開始を遅らせることができた。また、Mahajanらの研究によれば、早期のCKDで明らかな代謝性アシドーシスがない患者において、重炭酸ナトリウムの投与がGFRの低下のスピードを抑えた。
 これらの結果を受けて、CKD診療ガイドライン2013においても、
「重曹などで血中重炭酸濃度を適性にすると、腎機能低下、末期腎不全や死亡リスクが低減するため、代謝性アシドーシスの補正を推奨する。」
となっている。
 しかし、なぜ、代謝性アシドーシスを補正することによってCKDの進行が抑制されるのかは明らかでない。ひとつの可能性は、代謝性アシドーシスそのものが有害であるという可能性。もう一つは、酸負荷に見合う酸排泄ができていないことにより、皮質アンモニア濃度の上昇や腎臓のエンドセリン産生の亢進、RAA系の活性化などがおこり、線維化が促進される可能性が考えられている。もし、前者であれば、治療対象は、明らかな代謝性アシドーシスが現れるCKDの末期の患者が対象になる。後者であれば、血清重炭酸濃度低下が明らかでない早期のCKDも治療対象となる。
 これらのメカニズムを明らかにするために、Valletらは、尿中アンモニア排泄量と腎機能進行との関係を明らかにし、2015年にKidney International誌に報告した。この試験では、代謝性アシドーシスそのものではなく、尿中酸排泄能力の低下がCKDの進行と関わるかどうか調べた。対象はNephroTest研究の患者(CKD stage1〜4)の1065名であり、総静脈CO2濃度(tCO2)と尿中アンモニア排泄と長期のCKDの予後について調べた。患者の腎機能は、51Cr-EDTAを用いて実測され(mGFR)、中央値は37.6ml/min/1.73m2であった。尿中アンモニア排泄はGFRとともに減少したが、総体内酸産生(net endogenous acid production ; NEAP)は変化しなかった。4.3年間の長期フォローにおいて、201名の患者が末期腎不全となり、114名の患者が末期腎不全に至る前に死亡した。26%の患者のmGFR低下は年10%を越えた。尿中アンモニア排泄高値群に比べて、低値群では有意に末期腎不全のリスクが高く、mGFR減少のスピードも速かった。tCO2低値群では、有意にmGFRの低下のスピードが速かったが、末期腎不全のリスクは明らかではなかった。死亡率はいずれも相関しなかった。これまでの多くの研究は、酸バランスのサロゲートマーカーとして重炭酸濃度を用いていたが、本研究は、尿中アンモニア排泄の減少が、腎機能低下の予測因子になりえることを示したと言える。


血清Mg値とCKDの進行

Sakaguchi Y, Iwatani H, Hamano T, Tomida K, Kawabata H, Kusunoki Y, Shimomura A, Matsui I, Hayashi T, Tsubakihara Y, Isaka Y, Rakugi H. Magnesium modifies the association between serum phosphate and the risk of progression to end-stage kidney disease in patients with non-diabetic chronic kidney disease. Kidney Int. 2015;88(4):833-42. [Pubmed]

 高リン血症がCKDの進行を促進するというデータは数多く示されている。
 Mgはリンによって誘発される血管平滑筋細胞のアポトーシスを抑え、血管石灰化を防ぐ効果が知られている。大阪大学のグループは日本透析医学会が所有する維持透析患者のレジストリーを解析し、血清Mg濃度高値の透析患者では血清リン濃度の上昇に伴う心血管死亡リスクの有意な上昇が認められないことをすでに報告している。
 この知見の延長線上において、Sakaguchiらは、保存期CKDにおいて、CKDの進行と血清リンの関係が、血清Mgによってどのような影響を受けるかを明らかにし、Kidney International誌に報告した。
 大阪大学附属病院の311人の非糖尿病性CKD患者を対象とした。血清Mgと血清リンの値で4群に分けた。カットオフ値は、それぞれの中央値で、血清Mgは2.1mg/dL、血清リンは3.6mg/dLとした。中央値44ヶ月の追跡期間の中で、135人の患者は末期腎不全に進行した。様々な臨床要因を補正すると、Mg低値-リン高値群はMg高値-リン高値群に対して、2.07倍の末期腎不全発生率があり、EGFRの低下スピードも速かった。Mg高値-リン高値群とMg低値-リン低値群とMg低値-リン低値群では腎予後には差がなかった。尿細管細胞を高リン、低Mg培地で培養するとアポトーシスが増え、腎臓の線維化および炎症に関わるサイトカインのうちTGF-βとIL-6のmRNA発現が増加した。これらの変化は、Mgの濃度を増加させることで抑えられた。
 本研究の結果からリン過剰により惹起される腎障害や腎不全進行リスクに対してMgが保護的に作用する可能性が示唆された。そのメカニズムについては、まだ、詳細な検討が必要と考えられる。また、今後、特に血中リン濃度の高い慢性腎臓病患者に対してMgの補充が腎予後の改善につながるかも検証する必要がある。


尿中Ca排泄と血清Ca・血清ビタミンDとの関連

Rathod A, Bonny O, Guessous I, Suter PM, Conen D, Erne P, Binet I, Gabutti L, Gallino A, Muggli F, Hayoz D, Péchère-Bertschi A, Paccaud F, Burnier M, Bochud M. Association of urinary calcium excretion with serum calcium and vitamin D levels. Clin J Am Soc Nephrol. 2015;10(3):452-62. [Pubmed]

 Naと異なり、Caの場合、骨に大量のリザーバーがあるため、血清Caと尿中Ca排泄には相関がないと考えられている。大規模なコホート研究で尿中Ca排泄がデータとして取られていることが少ないこともあり、血清Caと尿中Caの相関を詳細に調べた研究はない。
 Rathod Aらは、Swiss Survey on Salt Intake Study(SSS study)のデータを用いて、尿中Ca排泄と血清Ca、血清ビタミンD値の相関を調べた。それによると、血清Caと尿中Ca排泄の正の相関は女性では認められるが、男性では認められなかった。また、Vitamin 25(OH)D3は尿中Ca排泄と男性では相関するが、女性では相関しなかった。本研究からは、ホルモン、食事による尿中Ca排泄が性別により大きく異なっていることが示唆される。

 


Gitelman症候群の治療

Blanchard A, Vargas-Poussou R, Vallet M, Caumont-Prim A, Allard J, Desport E, Dubourg L, Monge M, Bergerot D, Baron S, Essig M, Bridoux F, Tack I, Azizi M. Indomethacin, amiloride, or eplerenone for treating hypokalemia in Gitelman syndrome. J Am Soc Nephrol. 2015;26(2):468-75. [Pubmed]

 Gitelman症候群は、Bartter症候群類似の遺伝性疾患であり、低K血症、代謝性アルカローシス、低血圧ないし正常血圧を呈する。遠位曲尿細管に存在し、サイアザイド薬の標的であるNa-Cl共輸送体の遺伝子異常により惹起される。Bartter症候群より軽症であり、通常、成人になってから、発見されることが多い。
Gitelman症候群では、低K血症、低マグネシウム血症の症状を除けば、比較的予後がよいため、K補充、Mg補充を中心とした治療がおこなわれる。しかし、時に、K製剤だけでは十分にK補正が十分にできないときがあり、その場合には、K保持性利尿薬、NSAIDsなどが追加される。しかし、Gitelman症候群はまれな遺伝性疾患であるゆえ、これらの治療に関するエビデンスはなかった。
 2015年JASN誌において、Blanchardらが、Gitelaman症候群に対するインドメサシン、エプレレノン、アミロライドの効果と安全性に関する比較試験をおこなった結果を報告した。
 本試験は、open-label, randomized, crossover 試験であり、30人のGitelman症候群患者に対し、定常的なKおよびMgの補充に加え、インドメサシン徐放薬75mg、エプレレノン150mg、またはアミロライド20mgを6週間追加した場合の有効性と安全性を試験した。ベースラインの血清K値は2.8±0.4mmol/Lであり、インドメサシンによって血清K値は0.38mmo/L上昇、エプレレノンによって0.15mmol/L上昇、アミロライドによって0.19mmol/L上昇した。インドメサシンは有意にeGFRを減少させ、血清レニン濃度を減少させた。エプレレノンとアミロライドは血清アルドステロン濃度を3倍に増加させ、血清レニン濃度をわずかに上昇させたが、eGFRには影響しなかった。8人の患者が投薬を中止した。6人はインドメサシンによる胃腸障害のため、2人の患者はエピレレノンによる低血圧のためであった。結論として、いずれの薬もGitelman症候群患者の血清K濃度を上昇させた。インドメサシンはもっとも有効であったが、胃腸障害とeGFRの低下をもたらした。アミロライドとエプレレノンは同程度であるが、効果は低く、Na欠乏を誘発した。Gitelman症候群の患者を何人か外来治療している私にとっては、本論文は、個人的にも、今年もっとも役に立った論文だった。


血清K値とCKD患者の予後血清K値とCKD患者の予後

Luo J, Brunelli SM, Jensen DE, Yang A. Association between Serum Potassium and Outcomes in Patients with Reduced Kidney Function. Clin J Am Soc Nephrol. In press 2015.[Pubmed]

 CKD患者においては、健常に比べて、血清K異常が多い。重症の高K血症を除けば、血清K異常と予後の関係は不明である。また、eGFRの値によって、血清K異常の頻度や予後との関連を詳細に調べた研究は存在しない。
 LuoらはClinical Journal of American Society of Nephrology誌に、eGFRで層別化したCKD患者の血清K異常の頻度と、腎予後の関係について報告した。
 米国のマネージドケアHealthCare Partnersの患者のうち、CKD(eGFR<60ml/min/1.73m2)患者で血清K値のデータがある55266名を対象とした。移植患者と透析患者は除外した。
 まず、血清K異常の頻度であるが、血清K値5.5-5.9mEq/Lまたは6.0mEq/L以上は低いeGFR群に多く、eGFR 50-59 ml/min/1.73m2では、それぞれ1.7%と0.2%であり、30 ml/min/1.73m2未満では7.6%と1.4%であった。血清K 3.5mEq/L未満はすべてのeGFR群に1.2-1.4%いた。高K血症は糖尿病の合併、冠動脈疾患の合併、RAAS阻害薬の使用と相関があった。また、低K血症は女性に多く、サイアザイド薬の使用と相関があった。
 一方、血清K異常と予後(フォローアップの中央値2.76年)の相関であるが、血清K値と死亡率には、U-shapedの相関があり、死亡率は、血清K3.5mEq/L未満で3.05倍、血清K 6.0mEq/L以上で3.31倍高かった。各eGFR群においては、重大な心血管イベント、入院、RAAS阻害薬の中止と、血清K濃度にはU字の相関が認められた。
 以上の結果より、透析をおこなっていないCKD患者においては、高K血症、低K血症とも独立に、死亡、MACE、入院、RAAS阻害薬の中止と相関があると結論づけた。今後、血清K値を正常に保つことで、予後がどのようになるのか調べる必要があるだろう。


低Na血症に対する尿素の使用

Gankam Kengne F, Couturier BS, Soupart A, Decaux G. Urea minimizes brain complications following rapid correction of chronic hyponatremia compared with vasopressin antagonist or hypertonic saline. Kidney Int. 2015;87(2):323-31. [Pubmed]

 重症で慢性の低Na血症の治療においては、急速な過補正による浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome; ODS)を起こさないようにすることが重要である。高張食塩水とともに、海外ではバソプレシン受容体拮抗薬(バプタン)も低Na血症の治療薬として使われている。また、尿素は、わが国では薬物として承認されていないが、2014年に発表された欧州の低Na血症の診断治療ガイドラインは、以下のようにSIADHによる慢性で軽症の低Na血症に対して尿素の使用を推奨している。
7.4.3.2 In moderate or profound hyponatraemia, we suggest the following can be considered equal second-line treatments: increasing solute intake with 0.25–0.50 g/kg per day of urea or a combination of low-dose loop diuretics and oral sodium chloride (2D).

 尿素の低Na血症に対する治療効果は3つあると考えられる。1つは、脳浮腫の改善効果である。尿素は、尿素トランスポーターによって、水と同じくらいのスピードで筋肉などの細胞膜を通過するが、Blood-Brain Barrierはやや透過しづらい。したがって、尿素の投与による急速な血清尿素濃度の上昇は、Blood-Brain Barrierにおいて、浸透圧勾配を作り出し、脳からの水の流出を起こし、脳浮腫を改善する。2つめは血清Na濃度の上昇効果である。尿素は利尿物質としてもはたらく。尿素は糸球体を通過し、通過した約半分が尿中に排泄され、その際に、自由水の排泄も促す。これにより、血清Na濃度の上昇に働く。3つめに尿素の高浸透圧ストレスに対する保護作用である。尿素は、細胞を高浸透圧のストレスから保護する効果がある。尿素を培地に添加すると、腎髄質培養細胞は尿素なしではアポトーシスを起こすような高塩濃度でも生存可能である。慢性低Na血症における急速な補正によって起こるODSは、アストロサイトのアポトーシスが病態であると考えられている。尿毒症ラットでは、慢性低Na血症を高張食塩水で補正したときにODSをおこしにくいことが示されている。

 2015年のKidney International誌において、Gankam Kengreらはラットにおいて、尿素を用いて低Na血症を急速補正した場合には、高張食塩水またはバプタンを用いたときに比べて、ODSが起こりにくいことを報告した。

 臨床研究では、尿素のバプタンに対するSIADH患者への長期治療で同程度とであることが示されているが、本研究をもとに、過補正によるODSの発症頻度が低いことを示すような臨床研究が必要であろう。


輸液製剤として生理食塩水と、より生理的なCl濃度の緩衝晶質液のどちらが適切か?

Young P, Bailey M, Beasley R, Henderson S, Mackle D, McArthur C, McGuinness S, Mehrtens J, Myburgh J, Psirides A, Reddy S, Bellomo R, Bellomo R, Bellomo R. “Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit: The SPLIT Randomized Clinical Trial.” JAMA. 2015;314(16):1701-10. [Pubmed]

 0.9%食塩液(生理食塩水)はもっとも使われている輸液である。0.9%食塩液のNa濃度は血清Naよりわずかに高いのみだが、Cl濃度は血清Clよりもかなり高く、0.9%食塩液を大量に急速に投与することにより、高Cl血症やアシドーシスを起こすことが知られている。
 また、近年、いくつかの研究において、より生理的なCl濃度の輸液に対して、0.9%食塩液が有害である可能性が指摘されている。具体的には、0.9食塩液の方が急性腎障害(acute kidney injury ; AKI)の発症や腎代替療法(renal replacement therapy; RRT)の必要頻度、死亡率が高いという指摘されている。たとえば、オーストラリアメルボルンの大学付属病院でおこなわれた、Yunosらの研究では、標準的な輸液療法に対し、Cl濃度の高い輸液(0.9%食塩液、4% succinylated gelatin液、または4%アルブミン液)を制限するかわりに、乳酸リンゲル液またはPlasma-Lyte 148または、Cl濃度の低い20%アルブミン液を用いると、AKIの発症とRRTの必要数は有意に低下した。
 これらの研究を進めるために、ランダム化試験であるSPLIT試験が企画され、2015年のJAMA誌において、Youngらが報告した。
 SPLIT試験(0.9% Saline vs Plasma-Lyte 148 for ICU fluid Therapy trial)はNew Zealandの4つの施設でおこなわれた多施設共同試験である。ICUで輸液治療が必要な患者2278名を対象とし、0.9%食塩液とPlasma-Lyte 148の比較をおこなった試験である。Plasma-Lyte 148 の組成はNa 140 mmol/L, K 5 mmol/L, Cl 98 mmol/L, Mg 1.5 mmol/L, Acetate 27 mmol/L, Gluconate 23 mmol/Lであり、ソルアセトF®などの酢酸リンゲル液に近い組成の緩衝晶質液である。参加したICUには、7週ごとに生理食塩液またはPlasma-Lyte 148が割り当てられ、28週間の中で、2回のクロスオーバーがおこなわれた。輸液のスピードや頻度は治療医にゆだねられた。 主要評価項目はAKI (血清Crの2倍以上の増加、または、0.5mg/dL以上の増加)の発生頻度であり、副次評価項目は、RRTの必要頻度、院内死亡率であった。
 90日間のAKI発症は、Plasma-Lyte 148群9.6%、生理食塩水群9.2%で、有意な差はなかった。RRTが必要になった患者は、Plasma-Lyte 148群3.3%、生理食塩水群3.4%で、有意な差はなかった。 院内死亡は、Plasma-Lyte 148群 7.6%、生理食塩水群8.6%で、有意な差はなかった。
 結論として、本研究では、ICUにおいて輸液療法を受ける患者において、生理食塩水に対して、緩衝晶質液でAKIのリスクを下げることができず、これまでの研究とは異なる結果となった。このことの原因として、ICU在室中の輸液量の平均が2Lと少ないことが考えられる。また、対象患者の重症度がそれほど高くなく(APACHE II score の中央値14)、多くの術後患者を含んでいたことも原因かも知れない。より高いリスク群において、さらなる試験が必要であろう。